食中毒に備える保険はあるのか?
おいしいものを食べると幸せな気持ちになる、という人は多いのではないでしょうか。
食欲だけでなく、味覚も満足させてくれる食事は、私たちの人生に楽しみを与えてくれますが、時に思わぬ被害をもたらすこともあります。
それは、食中毒です。
牡蠣や鮮度の悪い魚、生に近いお肉を食べることで食中毒になったという話を聞いたことはありませんか?
もしも急に食中毒の症状に襲われたら、保険で保障はされるのでしょうか?
今回は食中毒に使える保険について紹介します。
食中毒の症状は?
「食中毒」というと、嘔吐や下痢などの症状を思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
確かに、食中毒といえばこれらが代表的な症状です。
それに加え、頭痛や筋肉痛、高熱を伴うこともあります。
また、脱水症状や呼吸困難を起こしたり、体力が低下したりすることで別の病気を発症することもあるなど、実際にかかると深刻化するケースもあります。
食中毒は「吐き気や腹痛がひどくなったもの」というイメージを抱く人もいるかもしれませんが、実は命に係わる重大な病気なのです。
もしも食中毒になったら、病院に行き、適切な処置をしてもらいましょう。
どういった種類の食中毒があるのか
食中毒の症状はおおむね共通しているのですが、その原因によっていくつかの種類があります。
その種類とは、主に5つに分類され、原因や感染の原因の例については以下表の通りです。
このように、食中毒は5種類に大別されますが、その原因によって、病気と災害に分けられます。
細菌性やウイルス性の食中毒は、病気に分類されます。
一方、化学性や自然毒性は、災害とみなされるのです。
食中毒で使える保険は存在する?
食中毒が発生したと一口で言っても、
(1)飲食店で食中毒が発生し、お客さまに被害が及んだ場合
(2)個人が食中毒になってしまった場合
の2つに大別することができます。
どちらに該当するのかで、どんな保険で対応できるのかも異なります。
ここでは、(1)と(2)のそれぞれについて、詳しく説明します。
飲食店で食中毒が発生し、お客さまに被害が及んだ場合の保険について
お店で提供した食事が原因でお客さまが食中毒になってしまった、お店で販売したお弁当でお客さまが食中毒になってしまった、という場合、お店はお客さまから損害賠償を求められる可能性が極めて高くなります。
この場合、調理の際の加熱が不十分など飲食店に原因があるのか、それとも、食材を製造・販売した会社に原因があるのかで、責任の所在は変わります。
もしも飲食店に責任がある場合、飲食店は食中毒の被害に遭ったお客さまに対し、治療費や入院費はもちろん、慰謝料も支払わなければなりません。
また、お客さまが食中毒により休業した場合は、その補償もする必要があります。
もしもお客さまが飲食店に対し訴訟を起こしたら、訴訟費用や和解のための弁護士費用もかかるでしょう。
それだけでなく、食中毒の原因の調査や厨房など設備の消毒、交換を行う必要もあります。
さらに、休業したり、仮店舗での営業を行ったりすることも考えられるのです。
一方、飲食店には何の過失もなく、調理に使用した食材を製造した会社に食中毒の原因があった場合はどうでしょうか?
実は、そうであっても、飲食店がお客様に金銭的な対応をする必要に迫られるのが現実です。
なぜなら、飲食店が原因の食中毒でなくても、「あの店は食中毒を出した」という風評被害にあう可能性が高いからです。
飲食店にとって、「安心して食事を楽しめる」というイメージは大切です。
そのため、自店に何の落ち度もなくても、このような悪評が立つだけで売上が激減し、最悪の場合、閉店せざるを得ない状態に陥ることも十分に考えられます。
そうならないよう、お客さまが食中毒の症状を訴えてきた時点で、人道的な見地から見舞金を支払うなど、何らかの対応をとる必要があるのです。
このように、飲食店で食中毒が発生した場合、責任の所在の如何に関わらず、大きな金銭的負担がかかることになります。
それに備えるための保険に加入する必要があるのです。
飲食店が食中毒に備えるために加入すべき保険として、「生産物賠償責任保険」があります。
PL保険とも呼ばれるこの保険は、製造・販売した製品などに何らかの欠陥があり、お客さまに与えた損害を補償する法人保険です。
生産物賠償責任保険では、食中毒を起こしたことにより発生する
(1)食中毒を起こしたことによるお客さまへの損害賠償
(2)営業停止と営業再開後の売上の大幅減
(3)市場に出回った商品のリコール
の3つのリスクのうち、主に(1)を補償し、(2)と(3)については、特約でカバーします。
尚、(3)については、特約でカバーできない保険もあるので、その場合は別の保険に加入しなければなりません。
また、先ほどふれた、お客さまへの見舞金については、基本補償には入っておらず、特約でカバーします。
生産物賠償責任保険に加入し、特約を付けることで、飲食店で食中毒が発生した時に想定されるさまざまなリスクをカバーすることができるのです。
※保険会社によって補償内容が異なりますので、詳細は各保険会社へお問い合わせください。
個人が食中毒になってしまった場合の保険について
結論から言うと、個人が食中毒になった場合、食中毒に限定した保険というのはありません。
食中毒は、あくまでも、病気もしくは災害の一種として扱われることになります。
そのため、医療保険や傷害保険で食中毒をカバーできますが、特約を付けなければならないケースもあります。
特約として付帯することでカバー可能な場合も
食中毒そのものに対する保険というのはありませんが、他の保険に特約として付帯することで、食中毒もカバーできることがあります。
例えば、医療保険なら通院・入院の特約を付けた場合です。
原因が食中毒であっても、通院や入院に関する条件を満たしていれば、保険金は支払われます。
但し、入院だけで通院は対応していないものもあるので、症状が軽度の場合は注意が必要です。
また、「食中毒になって、自宅で安静にしていたら治った」という場合は、医療保険に入っていても、当然のことながら保障の対象外になります。
傷害保険の場合、特約が食中毒に対応している場合があります。
それは、災害として判断される化学性、あるいは自然毒性のケースに当てはまる場合です。
一見、傷害保険と食中毒には関係がないように思えるかもしれませんが、有害物質の摂取なども傷害保険がカバーする範囲に含まれるので、対象となります。
但し、細菌性食中毒やウイルス性食中毒は、傷害保険の対象外となります。
なぜなら、これらは疾病として扱われるからです。
そのため、貝を食べて食中毒になったものの、貝毒が原因ではなく、貝に含まれるロタウイルスが原因だったというケースでは、ウイルス性の食中毒と判断され、傷害保険ではカバーできないので注意しましょう。
尚、傷害保険の中には、「特定感染症危険補償特約」という特約が用意されているものがあります。
詳しくは後述しますが、もしもこの特約を付けていれば、特定の食中毒が補償の対象となります。
「特定の」と書いたとおり、全ての細菌性食中毒やウイルス性食中毒が補償の対象となるわけではありません。
もしも特約を付ける場合は、どんな食中毒が補償の対象となるのか事前に確認しましょう。
すでに書いたように、食中毒の多くはウイルスや細菌が原因です。
そのため、傷害保険が役に立つことはあまりないかもしれません。
もしもあるとしたら、毒キノコや有毒魚を誤食したケースです。
地域によっては、春から秋にかけて、山に入ってキノコを採取する習慣があります。
また、最近ではアウトドアレジャーの一つとして山登りをする人が増え、その延長でキノコを採取する人もいます。
食べられるキノコとの見分けがつかず、毒キノコを誤食して食中毒になった場合は、傷害保険が役に立ちます。
また、見慣れない魚を釣って食べた際に、その魚が有毒魚で食中毒になった、というケースもあり、この場合も傷害保険が役に立ちます。
いずれにせよ、自然毒性食中毒は知識不足が引き起こすことが多いため、食べる前によく確認し、食中毒にならないようにすることが大切です。
例外的に補償される食中毒もある
傷害保険の約款には、食中毒については外部からの有毒物質の摂取によって生じた中毒症状を含むものの、細菌性やウイルス性のものは含まれないと記載されています。
しかし、細菌性やウイルス性の食中毒であっても、特約を付けることで傷害保険の補償を受けられるものもあります。
例えば、O-157がそうです。
O-157の正式名称は「腸管出血性大腸菌」ですが、これは法律によって特定感染症に分類されています。
先ほど書いたとおり、傷害保険の中には、「特定感染症危険補償特約」という特約が用意されているものがあります。
これを付けることで、O-157になった場合に補償してもらえるのです。
また、腸チフスや細菌性赤痢が原因の細菌性食中毒も、この特定感染症危険補償特約の対象となっています。
これ以外にも、特定感染症危険補償特約の対象となる食中毒がありますので、細菌性やウイルス性の食中毒の中で、どのようなものが対象となるのか約款をしっかりと確認することが大切です。
さらに、どこまで補償されるのか確認し、必要であれば追加で補償を受けられるように別の保険に加入することも含めて検討すると良いでしょう。
まとめ
食中毒に備えて保険の加入を検討しようとしても、食中毒専用の保険というものはありません。
そのため、医療保険や傷害保険などの特約として加入することになります。
しかし、全ての食中毒をカバーできるわけではないという点は覚えておきましょう。
食中毒に対応するためには特約を付けなくてはならない場合もありますが、その特約を増やす、あるいは今まで使ったことが無かったので特約を外すような場合は、よく検討してから決めてください。
文責:宮野 岳
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